九州地方ESD活動支援センターは、平成29年に設置されて以来、中間支援組織としてビジターセンター、自然体験施設をはじめとしたESD実践者の皆様による、地域ネットワークの構築を目的に、ワークショップの開催等、多様な実践者の連携・協働を進めてきました。
九州ESDセンターでは、このような皆様の協力のもと得られたネットワークを、成果として活用しながら、九州・沖縄地域で、今後どのようなESD推進を目指すのか、具体的な目標を整理・明示するものとして推進計画(仮称)の策定を検討しています。
推進計画の策定にあたり、複数の場作りをとおし地域の実践者の皆様のアイデアを集約するため、九州地域のESDネットワーク推進に向けた課題は何か、またそのために各施設、職員が地域でどのような役割を担っていくのかを議論する、意見交換会をオンライン実施と対面実施を組み合わせ開催しました。
以下、開催の様子をレポート掲載いたします。
◎このような意見交換を通して得られた成果を、今年度策定する「九州・沖縄地域ESD推進計画」(仮称)の構成に反映する予定です。
開催概要
■日 時 令和3年10月19日(火) 13:15~17:00
■ハイブリッド開催
【対面開催】夜須高原青少年自然の家(〒838-0202 福岡県朝倉郡筑前町三箇山1103)
【オンライン開催】
■主 催 九州地方ESD活動支援センター(EPO九州)
■プログラム
1.開催挨拶
2.九州ESDセンターによる趣旨説明
3.参加者自己紹介
4.活動紹介
『小学校における生物多様性の保全に関する環境教育事業』
一般社団法人まほろば自然学校
『夜須高原におけるESD・SDGsの取組について』
独立行政法人国立青少年教育振興機構 国立夜須高原青少年自然の家
◎参加者意見交換
・【テーマ】地域におけるESDの現在地を探る
・活動紹介を受けてのご感想、
5.九州・沖縄地域ESD推進計画(仮称)の説明
6.意見交換(全体をとおして)
◎参加者意見交換
・【テーマ】ESD実践者の役割と地域課題解決について
・現在、自団体、施設に期待されている役割
・課題の解決に関する支援、活動パートナーのニーズ
7.閉会挨拶
事例発表
『小学校における生物多様性の保全に関する環境教育事業』
登壇:一般社団法人まほろば自然学校
今回の意見交換会では、岩熊志保代表理事に情報提供者としてご登壇をいただきました。
一般社団法人まほろば自然学校は、『「いきもの」を通した環境教育を行い、自然と上手に付き合える人を育て、強度の生物多様性を保全していく団体』として、福岡県で2005年に任意団体として設立され、2018年に一般社団法人として精力的なご活動に取り組まれています。
今回の事例発表では、環境教育プログラムの企画・実施に取り組まれる中で、太宰府市民の森のビオトープをフィールドにした「いきものふれあい講座」の実施、地域の保育園、環境施設などへの出前活動が紹介されました。
また、教育活動に加え、太宰府地域の自然環境調査を継続し科学的なデータを蓄積され、生物多様性の保全に向け、専門家と市民を交えた活動を行っていることが紹介されました。
「だざいふ移動自然博物館」の参加型展示、生態系に関する季節情報誌の発刊と配布など、地域の小学校と協力、協働した活動に注目が集まりました。
また2019年から筑紫地区4市の環境課と話し合いを重ね、持続可能な自然共生社会の実現を目的として、学校との連携に於いて行政からの協力を得られる体制づくりを行っておられます。
各自治体の講師派遣制度の活用や、協働提案制度を利用した地域活力向上の取組を、環境教育と接続され、多くの学校との活動が生まれ、教諭、児童の満足度も活動が蓄積されることで高まっていることが述べられました。
今後は、持続可能な環境教育のあり方として筑紫地区の取組を発信することや、地元の自然資源が複数の自治体にまたがっていることから、複数の学校が繋がった学びづくりを目指して活動を行う展望が紹介されました。
まほろば自然学校の今後のご活動目標として、教科を横断した授業の展開の実施や、教員の関心喚起、事業の継続として若手実践者育成の取り組みを行いながら、郷土の生物多様性の保全に繋げるビジョンが示されました。
■フィールド視察
意見交換翌日には、岩熊代表理事から太宰府市民の森のビオトープフィールドをご案内いだきました。
歴史ある多くの史跡の中にあることから、生態系が保全されるとともに、地域からの注目度が低いエリアであったところ、様々な関係者の協力でビオトープとして整備され、環境教育活動や、生態系調査に活用されている状況を、現地を歩きながら伺いました。
『夜須高原におけるESD・SDGsの取組について』
登壇:独立行政法人国立青少年教育振興機構 国立夜須高原青少年自然の家
井上 智朗所長にご登壇をいただき、事例紹介をいただきました。
各地のESDの取組を収集される中、施設がESD、SDGsに取り組む、学びのある学習施設になっているかを自問自答され、新たな施設づくりを志されたことが活動のスタートとして述べられました。
施設で地域のESD推進拠点施設としての役割を果たすため、情報の収集発信、事業展開、連携協働の3点に分けてご説明をいただきました。
・情報の収集発信
まず「YASUKOGEN SDGs project」を立ち上げ、Webサイトに専用ページを設けて公開。これにより、職員間の共通理解が生まれ、「どの窓を開けてもSDGsの風が吹く」施設としての活動がスタートしました。また施設におけるSDGsブランディングの取組に加え、施設の取組のシンボルとして「SDGs」推進宣言を公表されています。
複数のガイドブック、職員コラム等による情報発信により、職員の意識向上、他機関との連携拡充が推進されていることが紹介されました。
施設ではSDGsの各ゴールを、各事業へのラベリングすることは積極的に行われていません。この理由として所長は、施設職員が安易に「SDGs推進に取り組んでいる」つもりになることを避け、すべての教育活動、プログラムのベースがSDGsにあることを職員が意識するためであると述べられました。
・事業展開
周辺地域の里地里山に代表される、人と自然の関わりの中で育まれた自然と文化を、SDGsの視点から体験プログラム化し、昨年度モデルとして周辺小学校で展開されています。
筑前町とのモニターツアー事業連携では、地元の自治体がESD推進を協働で行う視点が共有されたことが、大きな成果であったと紹介されました。
またESDの大切な視点として「アート」の存在を重視し、「夜須高原こども芸術まつり」として、地域の甘木絞り、森のめぐみアート等の体験プログラムが実施されました。今年度は「筑前てしごと体験講座」を予定し、ものづくりの視点から地域の持続可能性を考えるきっかけづくりが実施されます。
・連携協働
地域と繋がりながら、企業、団体からの寄付を運営に活用するため、夜須高原Support Projectが行われています。民間企業名の紹介や、冠事業、ユニフォームのロゴ掲載、CSRの協力など、Web上のプラットフォームから積極的な発信が行われています。
最後に井上所長からは、これら3つの取組戦略を通して、SDGsの達成、ESDをキーとして、施設の運営強化を進め、各主体と連携を重ねていきたいというお言葉をいただきました。
当日の意見交換から
◎事例発表へのご感想等
- ESDやSDGsに関して、まだまだ所内、個人間で検討が進んでいない。
- 各施設、団体の活動を参考にしながら活動していきたい。
- 国際交流の側面で、協働して事業ができるのではないか期待が生まれた。
- 業務が多忙な中で、SDGs啓発、ESD推進に取り組むことが難しい。
- 内部教育や、研修機会が必要だと感じる。
- 企業連携に苦手な部分もあるが、協力者を増やしつつ密を避けた活動を行いたい。
- 福岡の中でのネットワークがもっと広げられるだろう。
- 地域の人材活用も可能なのでは?
- 国際分野と環境分野で取り組むアプローチは違うが、団体相互の連携をはかることで取組の幅が広がると思う。
- 自治体の首長や担当者の考え方や施策のトレンドによって対応が変わっていく中で、いかに持続させるか工夫が必要。
- 地域を超えて、専門的な者同士の関係づくりも面白そう(昆虫、底生生物など)。
- 教員経験の立場からすると、外部講師との調整は手間のかかる業務だったが、いざ社会教育の側に立つといかに活用していくかというふうに視点が変わった。
- いかに地道に継続するか、団体間のネットワーク支援についても必要だろう。
◎パートナーシップについて
- 行政担当者が変わっても活動が維持できる「仕組みづくり」が最重要。
- 事例が重なることで、団体の存在が周知され、次第に活動に広がりが生まれる。
- 「活動を助けてほしい」がファーストステップ。
- 足りないリソースを明確化することが重要。
- 協働思考を共有し、一緒に取り組むことを優先。
◎施設・団体に今後期待される役割について
- 地域の活動者は、環境課題を自分たちの身近に置き換える視点が提供できる。
- ゼロ・カーボンシティの表明などで、行政と協働した教育側面でも脱炭素分野で成果が必要になってきた。
- 脱炭素をすべてのゴールに関わる問題と捉える視点が必要だ。
- 団体の持続可能性として、経済的な側面支援が必要だ。
- 活動団体の高齢化、また支援ニーズへの対話の機会が不足していることを感じた。
- ESD推進主体として、ビジターセンターの位置づけをもっと高めていく必要がある。
- 国立公園関係の情報や脱炭素などの動きについてもキャッチしないと取れないが、もっとネットワークを介したキャッチアップの機会が必要である。
- 運営トップ層の意識を変えていく施策が必要。現場の職員だけではどうしようもない部分がある。