九州地方ESD活動支援センターでは、ビジョンの共有と地域におけるESD推進を目的にフォーラムを開催しました。
九州・沖縄地域が抱える地域課題は複雑化しており、持続可能な地域づくり、課題解決人材の育成・教育活動は、個々の主体が単独で実現することが困難です。
このことから令和4年度、九州地方ESD活動支援センター(以下 九州ESDセンター)は、持続可能な地域の実現に向けて、地域課題解決に資するESDの方針を示した「九州・沖縄地域ESD推進ビジョン」を策定しました。
このビジョンの共有と、持続可能な開発の担い手育成に関する情報提供、基調講演、活動事例をとおして、情報共有による、九州沖縄地域における地域特性に応じたESDの推進を行いました。
ご参加いただいたみなさまからの声を含めたレポートをぜひ御覧ください。
◎プログラムのうち、国立大学法人 岡山大学 地域総合研究センター 副センター長・准教授 岩淵 泰先生のご講演については、先生よりご快諾をいただき動画コンテンツとして下記の通り公開を行っています。
開催概要
■日時: 令和5年1月 25日(水)13:30~15:45
■会場: かごしま環境未来館 多目的ホール (鹿児島県鹿児島市城西2丁目1−5)
■オンライン: Zoom接続:
■参加者:59名 ※登壇者等含む
プログラム
1.挨拶及び趣旨説明
ご参加の皆様に向け、九州地方環境事務所、並びに九州ESDセンターより、今回のフォーラムの開催趣旨とESDの重要性について、ご説明を行いました。
その中では「九州・沖縄地域ESD推進ビジョン」に基づき現在進行している、地域ぐるみのESDモデル形成プロジェクトについてもご説明しました。
■ご参考:「九州・沖縄地域ESD推進ビジョン」とは
九州ESDセンターは、令和3年度に国内外のESD動向を基盤に、九州・沖縄地域の特性とネットワークを活用したESDの推進ビジョンを、多様な関係者のご協力のもと策定しました。
「地域ぐるみのESD活動」が各地で実現することを目指し、九州ESDセンターは、拠点・実践者のみなさまと共にESD活動を推進しています。
■「地域ぐるみのESD活動」について
地域ESD推進ビジョン実現と、地域の持続可能性のための人材育成に向け、多様なステークホルダーが集まって協議しESDを推進するシステムづくりや取組のことです。
2.環境教育・ESDについての情報提供
環境省 大臣官房総合政策課 環境教育推進室
室長 河村 玲央 様
続いて環境省の河村様より、環境教育とESDの国内外の取組状況について、SDGsへの関心の高まりや小中学校新学習指導要領、地域脱炭素実現の観点から、全国の地域ESD活動推進拠点、ESD支援センターの活動からご説明をいただきました。
そして気候変動と生物多様性の観点から、環境施策の動向をご説明いただきました。
気候変動においては「グリーン社会」というキーワードの登場と、COP27における「シャルム・エル・シェイク実施計画」のポイントをご説明いただき、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた基本方針と脱炭素先行地域の選定状況についても解説をいただきました。
生物多様性においては、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)での成果をご紹介いただき、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」に向け今年度策定されたロードマップのご説明をいただきました。
脱炭素、生物多様性はESDの推進においても一層注目が高まっていることから、参加いただいた皆様もご自身の活動との関わりを検討いただいたのではないかと思います。
3.基調講演
国立大学法人 岡山大学 地域総合研究センター
副センター長・准教授 岩淵 泰 様
続いて、岡山大学地域総合研究センターの岩淵様より「SDGs・ESDから考える対話とまちづくり」と題して基調講演をいただきました。
ご講演の中では、地域の課題解決におけるイノベーションを起こすための視点や「住みやすいまち」のあり方について、岡山県の事例から「プラットフォーム」の役割についてお話しいただきました。
まちづくりを支える市民参加の事例を、岡山市、真庭市、奈義町という特徴的な3地域からご紹介いただき、九州・沖縄地域からの参加者のみなさまへ、ESDとSDGsのまちづくり実現に向けてたいへん心強いメッセージをいただきました。
基調講演の模様は下記より動画公開しておりますで、ぜひ御覧ください。
4.ESDダイアログ
最後のプログラムとして、地域ぐるみのESD推進を考える登壇者と参加者によるESDダイアログを行いました。
最初のセッションでは九州ESDセンターが今年度実施している「地域ぐるみのESD実践モデル形成プロジェクト」における3つのパートナー団体のみなさまから、活動のご紹介をいただきました。
3団体のみなさまのご発表から主要なトピックをご紹介します。
事例紹介セッション
大分県の地域環境ネットワークでは、地域でESD実践者が集い課題共有・対話を行う場が不足しているという問題意識から、地域内相談・仲介窓口の存在を模索されていました。
他方、パートナー団体のこれまでの長期にわたる取り組みにより関係が構築された、地域の取り組みのコアとなる実践者との対話からは、多様なステークホルダーの交流や地域コーディネーターへのニーズが明らかになっていました。
このような背景から、「ゆるやかな地域ESDプラットフォーム」の構築を主眼としたプロジェクトが始動しました。
多様な主体が交流するステークホルダーミーティングの開催に向けて、すでに獲得されたネットワークに基づいた2回のコアメンバー意見交換を実施し、改めて課題整理とニーズの抽出に取り組まれました。ネットワークに加わっていただきたい人材像が明確化されるに伴い、ステークホルダーミーティングの開催アイデアが拡大しました。
11月に開催されたステークホルダーミーティングでは、大分県地域内でのネットワーキング事例、宮崎県でのSDGs人材育成事例の2件の取り組みを紹介し、ESDの推進に向けた新たな視点が提供されました。
さらにテーマを「環境教育」に焦点を絞りつつも、参画いただく人材を環境分野に限定しないことで、多様性のある議論を実現することに成功しました。
このような取り組みが功を奏し、大分県内で次年度にも継続するESDプラットフォームとして、具体的な対話のアイデアが生まれています。
鹿児島県姶良市のNPO法人くすの木自然館は、霧島錦江湾国立公園のビジターセンターである重富海岸なぎさミュージアム等を運営し、地域ESD活動推進拠点にもご登録をいただいています。
鹿児島県ではこれまで行政も参加する地域の学び、ESDを支援する事業が展開しています。一方、鹿児島県に限らず行政が参加するプロジェクトならではの課題として、職員の人事異動に伴う活動の停滞が発生し、持続的にESDを推進する難しさが常態化していました。
そこで今回の取り組みでは、人事異動にも耐えうる持続的なESD推進の仕組みにおいて、地域の学びを提供する「社会教育施設」が大きな役割を果たすのではないかという仮説をもとに活動を進めました。
検討を進めると、地域資源の捉え直しやSDGs教育の側面から、社会教育施設へのニーズは近年一層高まっており、重富海岸なぎさミュージアムをはじめとした、姶良市で複数展開する社会教育施設が地域の学びにおいてネットワークする価値は大きいと感じられました。
また姶良市の特長として自然環境だけでなく、文学や天文、歴史文化をなど施設のテーマが多様であることから、プラットフォームが形成された際の効果は広く波及効果があると予想され、そのモデル性の高さから、近日開催予定のステークホルダーミーティングの成果に期待が高まっています。
○海洋環境ネットワーク(沖縄県)
沖縄県は世界自然遺産に代表される豊かな海洋環境や、貴重な生物多様性の宝庫です。
一方で自然環境のすばらしさを伝える環境教育については、観光側面では充実しているものの、県内の子どもたち向けについて教育機会が限定されているという状況が予想されました。
またその教育の実践者についても、これまで高められた知見があるにも関わらず、後継者不足による新規担い手の確保が直近の問題となっています。
このような背景をもとに、海洋教育の新規の担い手となりうる人材を確保しながら、後継者がESDの手法・技術を段階的にアップデートできるような活動プラットフォームの設立を、パートナー団体は模索されています。
1月に開催されたステークホルダーミーティング開催、準備をとおして、学校教育との連携不足や、ボランタリーに依存した環境教育の実践などが改めて把握されました。
また、島嶼地域ならではの学びの持続性の課題や、教材等の情報へのニーズなど、ミーティングに参加いただいた方からの声として、新たな視点が獲得されました。
特に新規の担い手として期待される、高校生・大学生といったユース世代へのアプローチについては、スタディツアーの実践など具体的な取り組みが検討され、ESD実践者間のイメージが共有される交流の機会となりました。
長い海岸線と島嶼地域を持つ九州・沖縄地域において「海洋教育ネットワーク」の取り組みは、ESD推進のモデルとして高い波及効果をもたらすことが期待されます。
意見交換セッション
パートナー団体として活動する3つの団体の事例発表を受けて、ご登壇いただいたみなさまによる意見交換を実施しました。
共通した話題として、人口減少の時代において担い手を確保することは非常に困難になっている中で、「プラットフォーム」という一種「なんでもあり」のかたちを有効に活用しながら、様ざなな支援を有効に活用しつつ持続的なスキームを作っていくことの大切さが指摘されました。
また新型コロナウイルスの拡大の中で、大きく減った「対話の場」が今回のプロジェクトを通して復興され、地域の持続可能性について改めて共に考える場が生まれたことは、非常に重要な点だという意見を頂いています。
ESDネットワークという視点では、「ESD」というある意味で難解な言葉を使って仲間づくりをするには、その成果を明確にしながら教育の効果を広く社会に伝えていくことが必要という指摘もありました。環境教育やESDに熱意を持って取り組むにあたり「孤独」になってしまっている人材に向けて、仲間づくりは大変重要な視点だという意見に、登壇いただいたみなさまは強く共感されていました。
また3団体の共通のプロセスとして、当初は課題解決に取り組むという強い意志があるが、段階を踏む中で「面白さ」「楽しさ」の追求があるというご意見もありました。「課題解決」という重厚な目標だけでは厚みのあるプラットフォームは形成しづらく、推進力として明るい話題を導入していくことが大切だというヒントが関係者にもたらされました。
以上のように、今回のモデル形成プロジェクトにお取り組みいただいた3つのパートナー団体は、地域も活動背景も異なりますが、地域の担い手育成を持続的に行っていくという活動の中で、共通した課題設定や、有効なプロセスの発見をされていました。
またそれぞれのご活動について、地域の外からの助言やご感想をいただいたことで、3団体のみなさまに限らず、ご参加いただいた九州・沖縄地域のESD実践者のみなさまに、俯瞰的な視点や新しい取り組みへのご提案が、今回のフォーラムをとおしてできたのではと考えております。
フォーラムの開催にご協力いただいたみなさま、誠にありがとうございました。
◎最後にアンケートにていただいた参加者のみなさまのご感想を掲載いたします。
■開催アンケートより
※(一部抜粋、編集しています)
- SDGs,ESD,環境教育の関係や関連する法律のことなど,あらためて考える場をいただきました。
- 我が国におけるESDの歩みやESD推進拠点の増加など、世論の変化を感じました。
- ESD推進活動の参加者数や対話の場は年々増えているということを知りました。自然環境をただ守るだけではなく、地域と協力しながら活用していくことが大切であると改めて実感しました。
- 国別の環境問題へ意識調査で、認知度は日本は高いが、気候変動対策が日本では市民の60%が「生活の質が脅かされるもの」と回答したことについて、いかに環境問題が自分ごととして捉えられるかがカギとなるのではと感じた
- 持続可能な社会形成のための人材育成への取組みは、高齢化する当NPOメンバーの後継者対策として喫緊の課題です。是非、具体的にネットワークが広がり人材が創出・育成されることを期待したい。
- 環境施策の動向、環境教育とESDについて、最近よく耳にはするものの、理解できていないことが多いのを実感しました。大変勉強になりました。
- 岡山県モデルの紹介をしていただき,勉強になりました。
- 外国の方からの日本の地域社会が明るく見えているという話は、中にいるとわからないこと、視点やバックグラウンドが変われば見え方も変わることの例として、大事なことだと感じました。
- 岡山県の各地区の紹介をされていますがそれぞれがやりたい事、やるべき事を地域の方々がしっかり連携して取り組んでいると感じました。
- 情報の共有、活動の評価と継承、仲間のまきこみが肝であるというのは納得できた。
- 体験・対話・参加を通して共通のトピックスを持つことが重要であると学びました。市民が直接参加することができる話し合いの場があることは、情報共有や交流の場としてとても大切であり、また、実際に体験する活動があることで人やまちが元気になると思いました。
- 行政や県民・市民がSDGsやESDをどのように自分ごととして行動に移せるのか、きっかけや働きかけなど知りたい。
- 意見交換会にも繋がりますが、3団体が違うことをしているようで、同じような悩みと、同じような着地点を目指していると感じられたことが印象的でした。
- 行政職員としては、「異動により流れが切れたり後退したりといったことがある。」という話は、申し訳なく思います。
- 九州の中で、ESDについての様々な活動をしている団体があるということを知ることができて良かったです。
- 個人でつながるのか、組織(社会教育機関)でつながるのか、地域それぞれに特徴があり、今後の展開に期待したい。
- まだこれからネットワーク・プラットフォーム化だが可能性を信じて取り組む姿に共感する。学校・次世代を巻き込むことが一番のポイントかと思った。
- プラットフォームを作るのに、三者三様の課題があって、それぞれが違ったアプローチをしているのが面白かった。それでもぶつかる壁が似通っているのも不思議だった。
- 3団体とも今取り組んでいることをわかりやすく説明していたと思う
- それぞれの地域に特色があり、それぞれの課題があるのだと思いました。
- ユースと先駆者とのつながりの場・学びあいの場、欲しいです。
- 九州ESDセンターの活用の仕方について、知りたいと思いました。
- 現在も地域ESD活動拠点的な動きをしているが、まだまだ広がりが弱いので力を借りながら若い力への継承を進めていきたい。